■研究テーマ: 近現代フランス文学
■略歴・主要業績
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■研究領域
専門として研究しているのは20世紀フランス文学です。もともと興味があったのは日本の近代文学だったのですが、小林秀雄、福永武彦、遠藤周作、三島由紀夫、大江健三郎...といった、フランス文学に影響を受けた日本の作家を理解するのに役立つだろう、くらいの気持ちで仏文科を専攻したところ、フランス文学の豊かさ、奥深さにすっかり魅了されてしまいました。
とりわけ大きな衝撃を受けたのは、現代作家ル・クレジオの作品です。この作家をもっと深く理解したいという思いに引きずられて、フランス文学研究の道へと足を踏み入れることになりました。5年ほど留学して2005年にパリ第Ⅳ大学へ提出した博士論文では、ル・クレジオ作品を通時的に分析し、その思想と文学の変化を作家の西欧近代批判と結びつけて跡づけました。2008年にル・クレジオがノーベル文学賞を受賞した際、ノーベル財団が発表した書誌のなかで、主要研究書の一冊としてこの論文を挙げてもらえたことは、研究者冥利につきます。
現在は、ル・クレジオという個別作家研究にとどまらず近現代のフランス作家に射程を広げ、そこに連綿と流れている「西欧近代批判と密接に結びついた非西欧世界への関心」の系譜を、文学史・思想史のなかで捉えなおすことを研究の軸としています。具体的には、ミショー、アルトー、カミュ、デュラス、コルテスなど、「西欧」を相対化する視点を持つ作家に関心を持っています。
また最近では、日本語とフランス語という2つの異なる言語表現の架橋としての翻訳にも興味があります。翻訳とは、ただ単に横のものを縦にする、あるいはその逆ではすみません。ある言語で表現されたものを、字面の意味だけではなく言外の意味まで正確に把握したうえで、それをできるかぎり忠実に別の言語で表現することです。それぞれの言語の背景にある文化や思考方法の違いを意識し、その異質なもの同士の出会いを自らのものとして生きる、そのような刺激的な経験こそが翻訳という一見地味な作業の醍醐味ではないかと考えています。
■私の授業
授業においては、あるテクストを正確に読解し、作者の言わんとすることを十全に理解することがまず最初の作業になります。目の前にあるテクストを書き手の意図に寄り添って読み解くこと、恣意的な読解や独りよがりの解釈に陥ることなく、他者の声を他者の声として尊重すること。そのうえで、そのテクストが生み出された歴史的・社会的・文化的文脈について理解を深めていくことになるでしょう。最終的には、テクストから時代・地域を越えて浮かび上がってくる、普遍的な「人間」というものについて考えることを目指します。魅惑に引き込まれて頁を繰る手ももどかしくテクストを読み耽るあの快楽、母国語ではない言葉の向こう側から未知の世界が一挙に現れてくる瞬間の驚きに満ちたあの陶酔、それを学生の皆さんと共有できればと思っています。