大学院に進学したのは、学部で学んだフランス語をもっと勉強して将来の仕事につなげたいと考えたからです。卒業論文で扱ったシュルレアリスムについて、より深く研究したいという気持ちもありました。学部での勉強がとても楽しかったので、そのまま学習院の大学院を選択しました。
博士前期課程に入ってみると、フランス語の勉強も研究も、想像以上に大変でした。ですが授業や勉強会で文学作品と向き合ううちに、先行研究を手がかりにテクストを読み、自分が面白いと思う点について論じたり、話し合ったりすることが楽しくなってきました。
幸いなことに、フランス文学専攻での研究環境は、非常に恵まれたものでした。膨大な文献があり、信頼できる先生方がいらっしゃいます。少人数の自由な雰囲気がある一方、単位互換制度や留学制度も整っていて、積極的に他大学院やフランス語圏の大学で勉強することを後押しして頂けました。
進学するまでは、語学の勉強は結局のところ自分でやるしかないと考えていました。ですが、大学院に進んだからこそ、尊敬する先生方と出会い、仲間と共に、将来につながる多くの経験を得ることができました。とりわけ、文学作品を含む様々なテクストを読んで分析する訓練は、外国語や言葉を扱う仕事をする上で、将来の可能性を広げてくれるものだと思います。今後も大学院で学んだことを糧に、研究・教育に励む所存です。
2011年博士後期課程単位取得退学 國學院大學専任教員 進藤久乃
大学院に進学したのは約20年前でした。関西大学の仏文科を卒業した私は、卒論でアンドレ・ブルトンの散文作品『ナジャ』について書いたのですが、その結果、作品のことがよくわかるどころかさらにわからなくなってしまいました。そして、この作品についてより専門的に学ばなければ人生にしこりが残る気がしたのです。
文芸評論や映画批評の分野でその著書に触れることの多かった中条省平先生のもとで大学院時代に教わったのは、さまざまな資料や先行研究を参照しながら、2~30行ほどの小説の一部を多様な文脈のなかで読み解いていくやり方でした。いくつもの授業を通して、文学作品に限らずひとつのコンテンツから客観的な意味を掘りだす技術を学びました。
別のやり方で文学と関わりたくなり、在学中に書きあげた小説で文芸誌の新人賞を受賞してから私は大学院を離れました。20年が経った今でも、大学院で学んだ技術は、多くの文学作品や映画、アニメやマンガなどから、創作においても人生においても大きな影響を受けずにはいられないようなさまざまな価値観を見いだすうえで役立ってきました。
文系の大学院で学ぶことは、大学に残り研究者への道を進むこと以外にも、さまざまな形で人生に豊かさをもたらすと私は考えています。
2004年博士前期課程修了
小説家 仙田学
僕は学部時代、他大学でアメリカ文化を専攻していたのですが、在学中に19世紀末のフランス文学に興味を抱き、卒業後にアルバイトをしながら独学でフランス語を勉強しました。数年後、ぜひ中条省平先生のもとで学びたいと考え、学習院大学大学院の博士前期課程に入学しました。フランス語で読むにせよ、日本語で書くにせよ、それまでは我流で好き勝手やっていたのですが、一流の先生方の指導を通じて、それまでの自分のやり方がいかにいい加減で独りよがりなものであったかを痛感しました。そのことが僕にとって大きな財産となりました。同級生や先輩後輩との交流も刺激的でした。興味の対象こそ違えど、専門を同じくし、互いに切磋琢磨している仲間の存在は、まだ何者でもない学生にとって励みになるのではないかと思います。入学当初、漠然とフランス文学に関わる仕事がしたいと考えていたのですが、博士前期課程を修了してから数年後、紆余曲折の末、運よくバンド・デシネ(フランス語圏のマンガ)を翻訳する機会に恵まれ、結果として、今ではフランス語の翻訳を生業としています。学生時代の落ちこぼれぶりを思うと、未だに自分でも信じられませんが、学習院で翻訳するための基礎体力を身につけたからこそ、今があるのだと思います。
2004年博士前期課程修了
フランス語翻訳家 原正人
学部時代からフランスのアフリカ系移民を取り巻くイスラム文化に関心を持ち、その延長として修士課程では、コンゴ出身のラッパー及び文筆家であるアブダル・マリクについて研究していました。伝統的な文学研究とは決して言い難いテーマであったにも関わらず、教授陣が私の意思を尊重し、常に温かくご指導くださったことは、院生生活を送る上でとても心強いことでした。
朝から晩までフランス語のテクストと向き合う日々は、時に孤独に感じられることもありますが、研究室に顔を出せば、いつでも教授や先輩方に気兼ねなく助言を求めることが出来ましたし、研究に行き詰まった際には、院生仲間と共に勉強会を開き、議論を交わす中で新たな気付きを得ることも多く、研究の助けとなっていました。
また、フランス語教育にも関心があった私は、院生期間に教職課程を履修し、中高専修免許を取得しました。フランス語教授法の履修はもちろん、学外で開催されるフランス語教育関連の学会や勉強会にも積極的に参加しながら、フランス語教育の基礎と技術について多くを学びました。そして有難いことに、在学中から高校のフランス語非常勤講師として勤務する機会に恵まれ、現在もフランス語講師として働いています。
素晴らしい教授陣、潤沢な蔵書、フランス語圏の作家や研究者を招いて定期的に開催される講演会など、仏文学研究に没頭することの出来る恵まれた環境が整う本専攻で、是非みなさんも濃密で有意義な院生生活を送ってください。
2017年博士前期課程在籍
フランス語講師 鈴木薫子
学部時代からの研究テーマである19世紀フランス諷刺画の研究により一層力を入れて取り組みたいと大学院に進学しました。もともと絵画に隠された意味を読み解くことに興味があり、世界史の図版に載っていた諷刺画などもその一つだったのですが、研究を通して再度その魅力に触れ、画に隠された「人々の声」を読み解く面白さとフランス人の持つ痛烈な皮肉の精神に驚かされながらも、現代の我々の生活に欠かせないジャーナリズムに関する研究をすることは大きな喜びで、現在の出版社での業務にも根底で繋がっていると感じています。
また野村先生のご指導の下での日々の研究に加え、パリへの留学経験も大きな転機となりました。パリ大学での学習と共に沢山の人々との出会いや会話を通してそれぞれの「文化」への理解が深まったこと、さらに世界各地に多くの友人を得られたことは大きな財産となっています。
語学スキルをはじめ大学で培った様々な知識や経験をベースに、現在は出版社において日本のコンテンツを世界中に広げるためのライセンス業務に関わっていますが、学習院での学生生活を通して広い視野と多角的な知見を培うことができたからこそ、文化の創造発展に寄与する仕事を目指す事が出来たと考えております。
仏文学専攻での学びは、世界を広げ、自分を成長させる大きなチャンスです。どうか自分の興味や関心のあるものを見つけて、それらを追求してみてください!没頭した先には必ず美しい景色が広がっているはずです!
2021年博士前期課程修了
出版社勤務 藤田洋子
わたしはティエリ・マレ先生の指導のもと、20世紀の批評家であり作家であるロラン・バルトの研究を行っています。わたしが当専攻に進学した理由は、「知の欲求」という本能に従ったためと言えるかもしれません。フランスの作家や思想家のテクストはしばしば難解であったり、解釈の可能性が複数存在したり、その読解を行うにもなかなか一筋縄ではいきません。そんなときは、当専攻に設けられた多種多様な授業に参加し、知識を蓄え、時には先生方から助言をもらってください。きっと異なる視点やひらめきを獲得することができるでしょう。知の欲求に従ってテクストを読み、そこにこめられた主張や意図を正確に理解できたとき、何十年、あるいは何百年を超えてその作家と通じ合えたような感覚を抱きます。知的好奇心がもたらすこの幸福感を味わうことこそが、文学研究の醍醐味ではないでしょうか。
研究の道のりは孤独で厳しいものかもしれません。しかし当専攻には、学生を根気強く見守り、必要なときにはいつでも相談にのってくださる先生方が存在し、また、ともに研鑽を積む仲間が在籍します。高い志と探究心を持つ方は、ぜひとも当専攻でこの知の幸福に身を置いてみてはいかがでしょうか。
博士後期課程 石井咲
私は他大学で西洋哲学を学んだ後、数年の社会人生活を経て、大学院から学習院のお世話になっています。現在は19世紀フランスにおける小説作品のジェンダーについて研究しています。進学先として学習院のフランス文学専攻を選択した理由は、それぞれのご専門で豊かで多面的な実績をお持ちの先生方がいらっしゃること、学科による手厚いサポートが受けられること、このような恵まれた条件がある中で、伸び伸びと自分の研究に集中できる環境に魅力を感じたからです。先述の事情から当初は学習院という新しい空間に馴染めるか不安もありましたが、穏やかで気さくな学科の気風に大変助けられています。フランス文学の研究作法も、指導教官をはじめとする先生方のご指摘をいただくことで一から身につけることが適いました。そして、主体的な参加が求められる質の高い授業の数々を通して、今後も研究を続けていきたいと思える自分なりの課題を見つけることもできました。蔵書の豊富なことも大きな魅力で、天井まで届く書架にびっしり並んだフランス語の文献を眺めているだけでもとても楽しいですよ。自身の興味や関心を研究という作業を通じてとことん追及したいという方には、ぜひこちらをおすすめします。
博士前期課程 前原みず佳