専任教員
内藤 真奈 准教授

NAITÔ Mana, maîtresse de conférences

■研究テーマ: 20世紀フランス文学、写真論、病気表象

■略歴・主要業績

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 パリ第8大学にて博士号(フランス語フランス文学)取得。国際基督教大学専任講師を経て、2023年より現職。

 著書にL'Univers d'intimité d'Hervé Guibert (L'Harmattan, 2015)。訳書にジャン=クロード・ベルフィオール『ラルース ギリシア・ローマ神話大事典』(共訳、大修館書店、2020年)、ロラン・バルト『恋愛のディスクール ― セミナーと未刊テクスト』(共訳、水声社、2021年)。

■研究領域

 私の研究は20世紀後半の小説、とりわけ1970~1990年代に活動した作家エルヴェ・ギベールの作品を対象としています。フランス人でも文学に詳しい人でなければ知らないような作家を選んだのは、日本の出版界にまだ活気があったころフランス現代文学作品の翻訳が多く世に送り出されたおかげで、翻訳を通して新しいフランス文学に触れることができ、そこに他国の文学とは違うなにかを感じたからです。大学でフランス文学科に進学したのも、おそらくそうした理由からだと思います。
 そのころ紹介された作家のなかでも、エルヴェ・ギベールはエイズという20世紀末に世界を覆い尽くした悲劇の犠牲となったこともあり、異彩を放つ存在でした。とはいえ、初めに興味をもったのは実はエイズではなく、この作家の自伝文学の書き方でした。ギベールが編み出した自分自身の物語をフィクションとして提示するやり方は、語り手が「私は私だけれど、私ではない」と主張するという、なんとも矛盾した現象を引き起こします。日常的な物語から知らず知らずのうちに虚構の物語へと誘い込まれる、その眩暈のするような感覚にまんまと絡め取られ、これは何なのだろうと答えを求めるうちに博士論文まで書くことになったという次第です。
 自己言及の袋小路から抜け出せなくなりそうなときは、異なるテーマに取り組むことにしています。エルヴェ・ギベールは写真家であり写真批評家でもあったことから、写真と関わりの深い文学作品を残しています。視覚の芸術である写真と言葉の芸術である文学とは、とりわけ20世紀において刺激に満ちた緊張関係を持っていました。写真は何を表現するのか、それは言葉では表現不可能なことなのか、反対に視覚的イメージでは表せないことを言葉は言い表すことができるのか、尽きせぬ問いに駆り立てられて研究を行っています。
 最近は病気表象にも興味を持つようになり、ギベールを含むエイズ文学作家の作品研究を足がかりに、文学史上語られてきた感染症の表象の研究を行っています。病気は暗いテーマと思われがちですが、逆説的に人間の生き生きとした姿を描き出す題材であると考えています。まだ体系的な研究があまりなされていない分野ですが、病気を描いた作品は意外なほど多数存在します。病気表象の視点からひとつひとつの作品を読み解きながら、作品という支流に流れこむ前の源流のいくつかを探し当てることが現在の目標です。

■私の授業

 授業では比較的新しい、ここ50年ほどの間に書かれた散文テクストを、文法や語彙に注意しながら正確に読み解くことを目指します。フランス語の発音やリズムをつかむことも重視します。この経験を積み重ね、現代的テクストの特徴をつかむことで、実生活でフランス語を使うときに応用が利くような語学力を身につけます。そのうえで読解内容について考察し、問いを立て、ディスカッションやレポートなどのかたちで議論を活発に行っていく予定です。